タロウ
先日実家で飼っていた犬が死にました。
名前は「タロウ」といいました。
JOHN LENNONを慕っていた僕は「ジョン」がいいということで決まった名前を、親父の独断で直前に「タロウ」と呼び始めたのは今からもう十年前のことです。
そもそも家族のだれも犬を飼うことに反対だったのに、親父の「健康のために朝夕散歩をする」という勝手なフィットネス思考のために飼うことになった犬でした。
ドーベルマンとゴールデンレトリバーのあいの子だということ・・・いまいち想像がつかなかったけれど、それでも8匹生まれたというの子犬から可愛い一匹を選べるという期待もありました。
実際にもらえるおうちに行ってみると、他の7匹はすでにもらわれて、残りは一匹でした。
その残った犬が「タロウ」です。
全身真っ黒で、子犬というよりは小熊のようで、お世辞にもかわいいと呼べる子犬ではありませんでした。散歩をしていると、真っ黒ということでびっくりされるし、ドーベルマンの血が強いのか、目つきも鋭い犬だったので、他の人が近寄ってなでるようなこともめったにありませんでした。
私が実家に住まいをもっていたころは、親父のかわりに犬の散歩をするのが嫌で、よく「親父の犬の散歩をなぜしなければいけないんだ」と腹を立てていたものです。それでも散歩に連れて行こうと近づくと、”遊んでくれる相手の小さいほう”ということで尻尾を振り、飛びかかり、新着のジーンズを泥だらけにしたりしました。
親父はタロウをそれなりにしつけようとしており、その甲斐あり、「よし」というまでは決して食事に口をつけませんでした。聞き分ける言葉のひとつでした。意地悪で鼻先に食べ物を持っていくと、本能で鼻を持っていきますが「まて!」と声を聞くと、あたかも目の前の食べ物がなかったかのように必死で振舞う仕草を今でも思い出します。
僕の結婚、仕事による引越しで実家を離れると、タロウと会う機会も少なくなったけれど、たまに実家に帰ると、散歩にでかけたり、おやつに食べていたパンをあげるときにからかったり、ボールの取り合い遊びをしたりしました。
おバカな犬で、遊びでボールをタロウから奪うと興奮しすぎて、足を噛んできたり、ボールをねらわず、僕の腕を狙ったり・・・痛くて本気で頭をたたいて怒鳴ったりしたこともありました。
おバカだったから、怒られているのも知らずに、僕がそばにいるだけで喜んでいました。
おバカだったけど、僕が実家に帰ると必ず小屋から姿を出して、尻尾を大げさに振って、ワンワンうるさく歓迎してくれました。
タロウは10才でした。
人間の年齢にするともう老年ですので寿命だったのかもしれません。
いつの間にか、僕の世代を超えておじいさんになっていたんだねぇ。
おじいさんになっても、僕が帰ると、はしゃいで、喜んで、迎えてくれたんだねぇ。
たまにタロウと息子の名前を間違えたり、息子をタロウと呼んだり・・・
おバカでなんの芸もない犬だったけど、僕の子供だったり、友達だったんだねぇ。
天国に行く前の日、タロウはもう起き上がることもできないくらい衰弱していたそうです。
おバカで飛びつくしか喜びの表現のできなかったタロウが、首をもたげてぐったりしていた姿を見て、仕事中にお袋が、「タロウが死んじゃうよ」と泣き声で電話をかけてきました。その日の夜、親父が帰宅すると、衰弱しきったタロウは、親父が帰ってきたことに喜んで、けなげにも立ち上がろうとし、尻尾を2、3回振ったそうです。最後はいつもいた小屋ではなく、家の玄関で静かに息をひきとったと聞きました。
タロウはうちにきて幸せだったのかなぁ・・・ごめんな、タロウ。最後にちゃんと遊んであげられなくてごめん。
タロウはどうだったかわからないけど、僕はタロウでよかった。
タロウ、お前と出合えて本当に良かった。ありがとう。
タロウ ・・・・享年 10才 2010年 12月 14日 永眠